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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)40号 判決

原告

ローベルト・ボツシユ・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング

被告

特許庁長官

主文

特許庁が、昭和59年審判第1792号事件について、昭和60年9月24日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた判決

1  原告

主文同旨

2  被告

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第2請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、1975年6月20日にドイツ連邦共和国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和51年6月18日、名称を「セグメント磁石およびその製造方法」とする発明(後に名称を「電気機械用異方性セグメント磁石の製造方法」と補正、以下、「本願発明」という。)につき特許出願をした(同年特許願第72119号)が、昭和58年9月28日に拒絶査定を受けたので、昭和59年2月3日、これに対し、審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第1792号事件として審理した上、昭和60年9月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」(出訴期間として90日を附加)との審決をし、その謄本は、同年11月6日、原告に送達された。

2  本願発明の特許請求の範囲

1 磁石を複数の領域から構成し、かつ個々の領域を異なつた磁気特性を持つ磁性材料から形成し、その際セグメント弧状部には最高の残留磁気Brを持つた材料が配置され、また少なくとも一方のセグメント端部には最高の保磁力IHcを持った材料が配置されるように磁性材料を選定した、電気機械用異方性セグメント磁石の製造方法において、残留磁気の大きい磁石材および保磁力の大きい磁石材をペースト状にしたバリウムフエライトまたはストロンチウムフエライトから作成し、前記2つの磁石材を、2つの射出ポンプにより射出通路を介して時間的にずらして1つの型空間へ供給し、その場合保磁力の大きい磁石材を最初にセグメントの一端または両端部に供給し、次いで残留磁気の大きい磁石材をセグメント弧状部に供給し、また続いて成形片を脱水、圧縮、焼結し、かつ研磨し、その際磁石片を方向付けるために圧縮中に磁界を加えることを特徴とする、電気機械用異方性セグメント磁石の製造方法。

2 磁石を複数の領域から構成し、かつ個々の領域を異なつた磁気特性を持つ磁性材料から形成し、その際セグメント弧状部には最高の残留磁気Brを持つた材料が配置され、また少なくとも一方のセグメント端部には最高の保磁力IHcを持つた材料が配置されるように磁性材料を選定した、電気機械用異方性セグメント磁石の製造方法において、磁石を対称構成する際には式VR/VGes=IHc(R)/IHc(K)が成立ち、非対称に構成する(磁石の一端だけが保磁力の大きい磁石材料から成る)際には式VR/VGes=1/2(IHc(R)/IHc(K)+1)が成立つように、使用されるフエライト材料の体積配分を選定し、その際VRは残留磁気の大きいフエライト材料の体積、VGesはフエライト材料全体の体積、IHc(R)は残留磁気の大きいフエライト材料の保磁力、またIHc(K)は保磁力の大きいフエライト材料の保磁力であることを特徴とする、電気機械用異方性セグメント磁石の製造方法。

3  審決の理由の要点

1 本願発明の製造方法により得ようとする磁石セグメントの側面図である本願明細書添付図面第1図(別紙図面、以下同じ)に、保磁力の大きい磁石材料からなるセグメント1及び残留磁気の大きい磁石材料からなるセグメント2とで示される形状をもつ1つの型空間へ、射出ポンプにより射出通路を介して、ペースト状のフエライト材料を最初にセグメントの一端又は両端部に供給することにより、同図に1として示される形状の部分を得ることは、この部分1を囲む壁の1つ、すなわち部分2との境界を形成する壁を欠いているので不可能なことと理解される。

2 本願発明は、「方向性を持つ酸化物磁石のための従来使われた製造装置を使用して」電気機械用異方性セグメント磁石を製造する方法を提供しようとするものであるが、従来の製造装置に本願発明の製造方法を単に適用することにより、同図に示される形状の部分1を得ることができないものと認められる以上、脱水機能を有するプレス型、射出ポンプ、射出通路などが公知であつたとしても、本願発明の製造方法によつて目的を達成することができるように明細書が記載されたものとは認められない。

3 また、本願発明のように、2つの磁石材料のペーストを2つの射出ポンプにより射出通路を介して時間的にずらして同図に示されるような1つの型空間へ供給し、目的とするセグメント磁石を得る方法を実施する装置が明細書の記載から自明であるとも認められない。

請求人(原告)は、特許請求の範囲第1項に「前記2つの磁石材を、2つの射出ポンプにより射出通路を介して時間的にずらして1つの型空間へ供給し、その場合保磁力の大きい磁石材を最初にセグメントの一端または両端部に供給し、次いで残留磁気の大きい磁石材料をセグメント弧状部に供給し、」との記載を加える補正をしたが、この記載を加えても、明細書中に、そのような製造方法を実施する具体的な手段が開示されていない以上、本願発明が明瞭に記載されたものとは認められない。

4 したがつて、本願出願は、明細書の記載が不備のため、特許法36条4項及び5項(昭和60年法律第41号による改正前のもの)に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。

4 審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点1の判断は誤りであり、この誤つた判断を前提とする同2、3の判断及び同4の結論はいずれも誤りであるから、審決は違法として取り消されなくてはならない。

1 本願発明は、その特許請求の範囲第1項に示されるように、ペースト状にした2種類の磁石材料を2つの射出ポンプにより射出成形して、異方性セグメント磁石を製造する方法であり、磁石材料の射出成形法である点で、プラスチツク材料の射出成形法とは異なる。

しかし、プラスチツク材料のうち熱可塑性樹脂の射出成形が可能であることはよく知られていることであり、また、射出成形が可能であるかどうかは、射出材料が何であるかに関係なく、材料が射出成形に適するかどうかによつて定まるものである。そしてフエライト材料を含むセラミツク材料の製品をプラスチツク成形体を作る射出成形機と同様な射出成形機を用いて製造することは、本願優先権主張日前周知の技術であつた(甲第10ないし第14号証)のであるから、ペースト状の磁石材料(フエライト材料)を射出成形する本願発明の方法にこれら周知の射出成形機を用いることができることは当業者にとつて明らかである。そして、右周知の射出成形装置において、材料をまずセグメントの一端又は両端に供給する装置(プレス型、射出ポンブ、射出通路等)と方法及び材料を2つの射出ポンプにより2つの射出通路を介して1つの型空間に供給する方法も本願優先権主張日前周知であつた(甲第5ないし第8号証)のであるから、この装置及び方法を本願発明のペースト状磁石材料のセグメント磁石成形法に応用できることは、当業者にとつて明らかである。この場合、例えば、甲第5号証の「塩化ビニル樹脂」(プラスチツク材料講座〔18〕、昭和48年8月30日第2版、日刊工業新聞社発行、特に283、284頁、図9.1、(0))に示される製品は、本願発明における「保磁力の大きい磁石材料を最初にセグメントの両端部に供給」した場合に該当する。この製品に見られるように金型が定まれば、本願発明の方法による2つのセグメントの境界線は必然的に定まり、本願明細書添付図面第1図の部分1と部分2との境界を形成する壁を作る必要は全く存在しないし、部分1と部分2との境界面を滑らかな平面にする必要もない。けだし、境界面が平滑であつてもなくても作用効果に差異はないからである。

したがつて、本願発明の方法により「同図に1として示される形状の部分を得ることは、この部分1を囲む壁の1つ、すなわち部分2との境界を形成する壁を欠いているので不可能なことと理解される。」との審決の理由の要点1の判断が誤つていることは明らかであり、これを前提とする同2の「脱水機能を有するプレス型、射出ポンプ、射出通路などが公知であつたとしても、本願発明の製造方法によつて目的を達成することができるように明細書が記載されたものとは認められない。」との判断が誤りであることもまた明らかである。

2 本願発明は、その特許請求の範囲第1項に記載されているとおり、「2つの磁石材を、2つの射出ポンプにより射出通路を介して時間的にずらして1つの型空間へ供給し、その場合保磁力の大きい磁石材を最初にセグメントの一端または両端部に供給し、次いで残留磁気の大きい磁石材をセグメント弧状部に供給」することを特徴とするものである。そして、2種の材料を2つの射出ポンプにより射出通路を介して1つの型空間に供給する方法は、すでに述べたとおり本願優先権主張日前周知の技術であつた。

したがつて、当業者が甲第5号証の文献に示される技術と甲第6号証ないし第8号証の各公報に示される周知技術を前提に本願明細書を見れば、本願発明を容易に実施できることは明らかであり、本願発明を実施する装置について明細書にわざわざ記載する必要はない。したがつて、審決の理由の要点3の判断は誤りである。

3 以上のとおりであるから、右誤つた判断を前提とする審決の結論が誤りであることも明らかである。

第3請求の原因に対する認否、反論

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。同4 1のうち、原告主張のプラスチツク材料又はセラミツク材料(フエライト材料を含む。)の製品を得る射出成形の技術が本願優先権主張日前周知の技術であつたことは認めるが、その余は否認する。同4 2、3の主張は争う。

2  審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。

1 請求の原因4 1について

本願発明の特許請求の範囲第1項には、「前記2つの磁石材を、2つの射出ポンプにより射出通路を介して時間的にずらして1つの型空間へ供給し、その場合保磁力の大きい磁石材を最初にセグメントの一端または両端部に供給し、次いで残留磁気の大きい磁石材をセグメント弧状部に供給し」と記載されており、これに対応して、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、「この時、2つのペースト状磁石材は時間をずらして射出される。すなわち、最初に高い保持力の材料を後端部に射出し、続いて高い残留磁気の材料を射出する。この時間的なずれは不可欠である。これにより高い残留磁気の磁石材が後端部に押付けられず、従つて磁石材の分離継ぎ目ができるだけ半径方向に向くように形成される。」と記載されている。これらの記載からみて、本願発明は、保磁力の大きい磁石材と残留磁気の大きい磁石材が相接して境界をなし、その分離継ぎ目ができるだけ半径方向を向くように形成された電気機械用異方性セグメント磁石の製造方法に係わるものと解される。

審決が、その理由の要点1において、本願明細書添付図面第1図(別紙図面)に「1として示される形状の部分を得ること」と述べているのは、右本願明細書の記載に示されているところの保磁力の大きい磁石材と残留磁気の大きい磁石材が相接して境界をなし、その分離継ぎ目ができるだけ半径方向を向くように形成された部分を得ることである。そして、原告主張の周知技術を本願発明の製造方法に単に適用することにより、右第1図に示される部分を得ることはできないと認められ、また、前記周知技術を勘案しても、本願発明の製造方法を実施するための装置が本願明細書の記載から自明であるとは認められない。

なお、「塩化ビニル樹脂」(甲第5号証)に記載のものは、プラスチツク材料を1つのホツパから単一の射出通路を介して固定型と可動型よりなる金型に射出するものであつて、原告が主張する「保磁力の大きい磁石材料を最初にセグメントの両端部に供給」した場合を示したものではない。

2 同4 2、3について

甲第6号証の公報に記載されている技術は、2つのホツパから異色の合成樹脂成形材料を交互に押し出し、1つの色彩から他の色彩に色彩が徐々に変化する外周をもつ合成樹脂中空成形品を製造する方法に関するものであつて、本願明細書添付図面第1図に示される部材を製造する方法を示したものではない。

甲第7、第8号証の公報には、2つのホツパから異色のプラスチツク材料を押し出し、色彩が連続的に変化するプラスチツク成形品を製造する方法及び装置が示されているにすぎず、本願発明の「2つの磁石材を、2つの射出ポンプにより射出通路を介して時間的にずらして1つの型空間に供給」する製造方法及びその装置は示されていない。

また、甲第9号証の文献には金型に関する記載があるだけであつて、同文献には、本願発明の製造方法及びそのための装置について何ら記載されていない。

以上のとおり、従来技術を勘案しても、本願明細書には本願発明が明瞭に記載されていたとは認められないので、審決の判断に誤りはない。

第4証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第2ないし第4号証により認められる本願明細書及び図面の記載によれば、従来、フエライト材料からなる異方性セグメント磁石につき、一方において磁束をできるだけ多くし、他方において減磁の発生を防ぐために保磁力をできるだけ大きくするという2つの要求を同時に満足させることは、1つのフエライト材料を用いる限り残留磁気と保磁力の双方を通常の値を越えて同時に高めることが技術的に困難であつたため、達成できなかつたこと、本願発明は、右従来公知のセグメント磁石の欠点を解消するため、全体としてできるだけ強力な残留磁気及び強力な保磁力を示し、最大磁束密度において最小体積を有するセグメント磁石を製造することを目的とし、前示当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲記載の製造方法を採用したものであること、本願発明によつて製造される電気機械用異方性セグメント磁石は、右特許請求の範囲に示すとおり、「磁石を複数の領域から構成し、かつ個々の領域を異つた磁気特性を持つ磁性材料から形成し、その際セグメント弧状部には最高の残留磁気Brを持つた材料が配置され、また少なくとも一方のセグメント端部には最高の保磁力1Hcを持った材料が配置されるように磁性材料を選定した」ものであるが、このように、セグメント端部に最高の保磁力を持つた材料を配置するのは、従来公知のセグメント磁石において、減磁の危険は特に端部において生ずることから、この端部に大きな減磁耐力を与えるためであり、また、セグメント弧状部に最高の残留磁気を持つた材料を配置するのは、セグメントにできるだけ大きな磁束密度を与えるためであり、この両者があいまつて、前示の全体としてできるだけ強力な残留磁気及び強力な保磁力を示す磁石が形成されることが認められる。

右事実によれば、本願発明の製造方法においては、セグメント弧状部に最高の残留磁気を持つたフエライト材料を配置し、セグメント端部に最高の保磁力を持つたフエライト材料を配置することが最も肝要な点であり、また、このように配置されれば足りるのであつて、右両材料の「分離継ぎ目は、できるだけ半径方向に延びるようにする」(甲第4号証明細書6頁10、11行)ことは望ましい実施態様ではあるが、右の「できるだけ」の語が示すとおり、両材料の接触面が半径方向に延びる平滑な面で截然と区分される境界を形成することは、本願発明の要旨とするところではないと認められる。もつとも前掲甲第2号証により認められる本願明細書添付図面第1図(別紙図面)には、磁石セグメントの側面図として、右両材料の分離継ぎ目が半径方向に延びる直線によつて記載され、両材料がその境界面で相互に出入なく相接している旨が示されているが、同図は、前掲甲第4号証により認められる本願明細書中の「本発明の実施例を以下図面によつて説明する。磁石セグメントは、両方のフエライト材料1および2から組立てられており、その際材料1が端部を形成し、一方材料2が、残りの弧状セグメントを満たしている(第1図)。」(同号証8頁9ないし13行)との記載から明らかなとおり、両材料の配置を示す概略図にすぎないと認められ、この第1図があるからといつて本願発明が同図に直線で示されているとおりの分離継ぎ目を形成することを要旨とすると解することはできず、前示甲第2ないし第4号証によつて認められる本願明細書及び図面の全記載に徴しても、このように解すべき根拠はない。

前示当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲第1項によれば、本願発明は、その目的とする前示電気機械用異方性セグメント磁石を製造するために、「残留磁気の大きい磁石材および保磁力の大きい磁石材をペースト状にしたバリウムフエライトまたはストロンチウムフエライトから作成し、前記2つの磁石材を、2つの射出ポンプにより射出通路を介して時間的にずらして1つの型空間へ供給し、その場合保磁力の大きい磁石材を最初にセグメントの一端または両端部に供給し、次いで残留磁気の大きい磁石材をセグメント弧状部に供給」する方法を採用したものであることが明らかである。そして、前掲甲第4号証により認められる本願明細書の発明の詳細な説明の項には、右方法を具体的に説明して、「これらの磁石材は、公知の製造方法によつて別個に用意され、ほぼ23%の水を含むペースト状になつている。これらの材料は、それぞれ1つの射出ポンプによつて複数の射出通路を介して型空間内へ射出される。その際高い保磁力の磁石材用の射出通路は磁石端部に、また高い残留磁気の磁石材用の射出通路はセグメント磁石の弧状頂部に射出される。」(同号証16頁10ないし17行)、「この時、2つのペースト状磁石材は時間をずらして射出される。すなわち、最初に高い保磁力の材料を後端部に射出し、続いて高い残留磁気の材料を射出する。この時間的なずれは不可欠である。これにより高い残留磁気の磁石材が後端部に押付けられず、従つて磁石材の分離継ぎ目ができるだけ半径方向に向くように形成される」(同17頁4ないし11行)と記載され、右方法を「方向性を持つ酸化物磁石のため従来使われた製造装置を使用して」(同5頁9ないし11行)実施できる旨が記載されていることが認められる。

一方、フエライト材料を含むセラミツク材料の製品をプラスチツク成形体を作る射出成形機と同様な射出成形機を用いて製造することが本願優先権主張日前周知の技術であつたことは、当事者間に争いがない。また、成立に争いのない甲第7、第8号証によれば、2つのプラスチツク材料をそれぞれ別個の射出ポンプにより別個の射出通路を介して1つの型空間へ射出し、2つのプラスチツク材料が相接してなる合成材製品を成形するための装置及び方法が本願優先権主張日前周知の技術であつたこと、この場合、2つの材料が相接する境界を形成する壁の必要はないことが認められる。

右周知技術を前提に前示本願明細書の記載を見れば、本願発明の右方法を当業者が容易に実施できることは明らかである。すなわち、成形すべきセグメント磁石の形状に相応する型空間を有する金型を作り、高い保磁力の磁石材用の射出通路を右型空間の一端又は両端部に通じ、高い残留磁気の磁石材用の射出通路を右型空間の弧状頂部に通じるように配置し、まず高い保磁力のペースト状磁石材を射出ポンプにより型空間の一端又は両端部に通じる射出通路を介して型空間に射出して、この磁石材を型空間の一端又は両端部に満たし、次いで、時間をずらして高い残留磁気のペースト状磁石材を射出ポンプにより型空間の弧状頂部に通じる射出通路を介して型空間に射出すれば、この磁石材はすでに前者の磁石材により満たされている型空間の端部に入り込むことなく、前者の磁石材と相接して型空間の弧状頂部を満たし、所望のセグメント磁石を形成することができるものと認められる。被告が請求の原因4に対する反論として述べるところは、前示の周知技術に照らし、右認定を覆えす理由とならないことが明らかである。

したがつて、本願明細書に本願発明の製造方法を実施する装置が具体的に記載されていないとしても、当事者は、前示周知技術を前提に本願明細書の発明の詳細な説明の開示するところに従つて、本願発明の方法を容易に実施することができるというべきである。

3  審決は、その理由の要点1に示すとおり、本願明細書添付図面第1図に「1として示される形状の部分を得ることは、この部分1を囲む壁の1つ、すなわち部分2との境界を形成する壁を欠いているので不可能のことと理解される。」と述べているが、射出成形法により2つの材料が相接してなる合成材の製品を得るにつき、両材料の境界を形成する壁の必要がないことは前示周知技術に照らして明らかであり、右の理由によつて本願発明の方法が実施不能であるとする審決の右判断は、右2で説示したところに徴して誤りというのほかはない。したがつて、右の誤つた判断を前提とする審決のその余の判断及びこれに基づく結論もまた誤りであるから、審決は違法として取り消しを免れない。

4  よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(瀧川叡一 牧野利秋 木下順太郎)

〈以下省略〉

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